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『ゆるキャン△』スタッフ対談インタビュー 第1弾 ~武川清志朗さん(富士の国やまなしフィルム・コミッション)~

2020年3月より『ゆるキャン△』チームへと配属されたフリュー株式会社の制作担当・綾野佳菜子氏が、『ゆるキャン△』を担当するスタッフ陣に体当たりでお話を聞いていくインタビュー企画がスタート。新担当だからこそ、ゼロからスタッフの方々にお話をお伺いしていき、『ゆるキャン△』の魅力を改めて皆様にお伝えできればと思います。

第1回は、『ゆるキャン△』でロケハンの手配から山梨でのイベントの実施など山梨県と作品を繋ぐお仕事を担当されている”富士の国やまなしフィルム・コミッション”の武川清志朗さんにお話をお伺いしました。

 

≪武川清史朗さんプロフィール≫
1986年山梨生まれ。東京都内企画制作会社に勤務後、富士の国やまなしフィルム・コミッションにて映像制作支援を行う。

▼地域の魅力は雑談することで引き出していく

綾野 まずはこの前はありがとうございました。武川さんに山梨をご案内して頂き、実際に街の様子を見られるとやっぱり気持ちが違いますね。

 

武川 風景と物語がつながってきて、印象が変わってきたりしますよね。また是非見に来てください。

 

綾野 ありがとうございます。是非近いうちに行きたいです。ということで、早速ではございますが始めていきたいと思います。こういう役割は初めてなので緊張しておりますが、いろいろお話をお伺いしていきますので、宜しくお願いします。

 

武川 宜しくお願いします。

 

綾野 武川さんは第1作目の『ゆるキャン△』から携わっていただいています。武川さんは1作目の初めのほうから作品を知っている主要スタッフとしてかかせない存在ですね。

 

武川 そうかもしれないですね。(笑)

 

綾野 そういった所から見えることもあるのかなと思いつつ、まずは基本的な質問で恐縮ですが、『ゆるキャン△』とはそもそもどのように出会ったのかをお伺いできますか。

 

武川 僕は映像作品の支援や協力を行っているフィルム・コミッションという仕事をしておりまして、モデル地の調整や確認、権利関係の処理などをお手伝いさせて頂いております。そもそも関わった経緯としては、TVアニメの制作段階で、プロデューサーの堀田将市さんからご連絡を頂いたのが始まりですね。コミックスが発売してちょうど2巻が出たぐらいのタイミングで相談をもらっていて、今に至ります。普段は映画やドラマなど年間で150本ぐらいの作品を担当しているのですが、アニメ作品というのは僕自身も初めてでした。

 

綾野 年間150本やっている中でアニメは初めてだったんですね。

 

武川 アニメの多くは原作があってですので、山梨県が描かれる作品がそうそう多くなくて、僕が担当してからは初めてのことでした。

 

綾野 そうだったんですね。アニメの話を聞いた時は原作が2巻ぐらい出ていたということですけど、そもそも原作はご存知でしたか。

 

武川 原作は堀田さん達が会いに来るとなったタイミングで買いました。それまでは山梨県が舞台の『ゆるキャン△』という作品があるのを全然知りませんでした。そこから見始めて、いまは発売日に職場に置く用、自分の部屋に置く用、カバンの中に入れる用として3冊ほどまとめ買いをしております。(笑)もともとアウトドアも好きだったので、今は作品にハマっていますね。

 

綾野 原作を最初に読んだ時の印象はどうでしたか。

 

武川 あfろ先生の描写がすごく細かくて、キャラクターがそこにいるかのように描かれていたので、現地を知っている僕達としては、これはすごいなと思いました。実写をやっていた人間だったので、「ここはこういう描き方をするんだ」とか「よくこんなところ見つけてきたな」とか。

 

綾野 現地を誰よりも知っている武川さんでも再現性がすごかったということですか?

 

武川 本当に細かく描写されていたので、しっかり現地を見て、取材されているんだなというのが伝わってきました。アニメ化する際の監督をはじめ制作スタッフの方々も真剣に山梨県の風景を描きたいということで、ロケハンをご一緒させていただいたのですが、そこでもアニメで描くことに対する熱量がすごかったので、それに応えられるように「僕達も頑張らないと」ってなりましたね。

 

綾野 この前も武川さんと身延のほうを回ったときに、一つ質問しても、歴史とか経緯とかすごく魅力的に語ってくださっていて、愛を感じました。

 

武川 映画とかドラマの現場でもそうなのですが、何かつながりが悪い時に、地元に行ってその地域の方々から話しを聞くことで、つながることがあったりするので、東京で作業をされている皆さんにできるだけ地元の情報だったり、今の状況を入れてあげないといけないかなと思っています。僕らの仕事としては、映像を活用した地域振興ということもあるのですが、それと同じくらい、その作品が良いものになるために、制作環境がスムーズに回ることも考えています。

 

綾野 普段から地域を回られて、そういった情報の引き出しを作るためにヒヤリングをしているのですか?

 

武川 肩肘張って聞くと「うーん」と考え込んでしまうので、雑談なんですよね。雑談の中でその土地の美味しいお店だったりとか、良い温泉だったりとか、そういうことを聞き出して、そして自分でも確認して、誰かに伝えていっています。

 

綾野 雑談がポイントなんですね。肩肘張らずに雑談からアイデアが生まれるというのは制作現場でも同じように感じたことがありました。

 

武川 『ゆるキャン△』に関しては、現地でお話しする中で思ったのは、制作チームの皆さんが本当に楽しみながら作っているなというのが伝わってきました。

▼地元住民が作り上げた手作り学園祭イベント

綾野 そんな中で、『ゆるキャン△』を見て気に入っている風景やシーンはありますか。

 

武川 第1話の本栖湖からの富士山の描かれ方や、劇伴の音楽が流れてくる所がやっぱり感動しました。

 

武川 あとは最初に出されたティザービジュアルですね。富士山の前に5人が並んでいるものを見て、作品のすべてが見えた気がしました。

 

綾野 実際に放送されて、山梨県の皆さんはどんな反応をされていましたか。

 

武川 放送前と放送後で本当に大きく評価が変わった作品だと思っています。モデル地の紹介WEBページを県で作らせていただいたのですが、3話目ぐらいから一気にアクセス数が増えました。

 

≪富士の国やまなし 『ゆるキャン△』モデル地紹介ページ≫

 

綾野 放送前はあまり「山梨のアニメやるぞ」という感じではなかったんですね。

 

武川 最初は「本当にヒットするかどうかわかりません」と話をしていたので、過度に加熱させていくよりも、卵を孵化させるようにじっくりPRしていこうという感じで、最初は地元の方々に知ってもらうことから始めました。それこそ回覧板で『ゆるキャン△』というTVアニメが放送しますというのを身延町で回してもらうところから。そうした中で、『ゆるキャン△』の地元のファンの方々から何かやれることはないかという声が上がってきたので、地域と一緒にPRしていこうとなり、イベントや商品開発が本格的に動き出していきました。地元の方々に自分達が何気なく過ごしている風景がほかの人達から見たらすごく魅力的なんだということを気付いて欲しいと思ったので、県内の方々に魅力伝える内側のプロモーションに最初は全て振っていました。

 

綾野 地元から盛り上げていっていただき、県外からも多くの人が訪れるなど、実際に放送後に反響があって、イベントなども実施してきたと思うのですが、印象に残っているイベントはありましたか。

 

武川 2018年11月に開催した本栖高校のモデルとなっている旧下部中学校跡地で行った『第一回本栖高校学園祭』の中の『秘密結社ブランケット音楽祭』が一番印象に残っています。このイベントは自分達が全て手作りで行ったイベントでした。実は僕も舞台監督をやらせて頂きました。

 

≪第一回本栖高校学園祭イベント当日の様子≫

 

綾野 舞台監督もやられていたんですか。

 

武川 そうなんですよ。あのイベントは地元の方々の協力がなければ出来ないものでした。地元の方々が、そこに来てくれるファンの皆さんに何かおもてなししたいという気持ちと、音楽の立山秋航さんが生で演奏していただくなどの作品に携わる皆さんのご協力で形になった手作りのイベントを実施できたことが本当に印象に残っております。今まで本栖高校のある五条ヶ丘という地域は正直多くの観光客が来るような町ではなかったのですが、この作品のイベントに携わったことによって地域に一体感が出て、自分達の町の魅力や価値に気付いたと地元の方々にも言ってもらえたので、僕としてはこのイベントは成功だったのかなと思います。

 

綾野 地元の方々に自分の町の魅力を気づかせ、一体感を生むことができた。これは武川さんがプロデュースされていていたんですね。

 

武川 僕ではなくやっぱり地域の方々やファンの方々がいたからこそですね。『ゆるキャン△』のファンの方々は、本当にマナーが良い人達なので、ファンの方々が地域の方々の心を動かして、町や行政までも動かしたのかなと思います。

 

綾野 山梨だけでなく、全国のファンがまず雰囲気を作って、それが実際のモデル地となっている山梨の皆様にも届いて、輪が広がっていき、そしてその間を武川さんが繋いでいったのですね。

 

武川 作品の持つ魅力がそうやって人を動かしたんだと思いますね。僕も良い作品だからいろんな方に見てほしいし、地元の方々にも知ってほしいと思って動いた感じですね。

▼ファンの方々に恩返しをしていきたい――

綾野 山梨県というところでは『へやキャン△』の話も外せないと思います。今年1月に放送されましたが、どうでしたか。

 

武川 『へやキャン△』はオリジナルというところもあって、あの作品を作っていただけたというのはスタッフの方々が山梨県は良いところだなって思ってくれたからかなと感じています。ただ、放送のタイミングで新型コロナウイルスの問題が出てしまったので、遠方のファンの方からは、「本当は行きたいんだけど行けない現状があります」という言葉をいただくこともあるので、『ゆるキャン△』『へやキャン△』を通して、落ち着いたら山梨県を楽しんでもらえる取り組みは絶対していきたいと思っております。

 

綾野 まだこの後も楽しめる企画を考えているということですね!?

 

武川 そうですね。企画中なので発表を楽しみにしてもらえればと思います。このコロナ禍で地域の観光が落ち込んでしまった時に、まず助けに来てくれたのは『ゆるキャン△』のファンの方々だったので、僕達も恩を感じていますし、何かしら恩返しはしていかないと、と思っております。

 

綾野 来年1月からは『ゆるキャン△ SEASON2』が放送開始致します。舞台として山梨県も引き続き出てきますが、今後どういったことをされていきたいですか。

 

武川 『SEASON2』だとキャラクター達の新たなる第一歩や出会いみたいなところがあって、作品に登場する場所も広がっていくと思います。ですので、より多くの人達にこの『ゆるキャン△』という作品を見てもらいたいですね。きっとこの作品を見て頂ければ、作品の良さを共感してもらえると思うので、ゆくゆくは作品のファンから地域のファンにもなって頂けるように僕らも協力していきたいです。ファンのみなさまには作品を見て是非興味が湧いたら、モデルとなっている地域にもぜひ足を運んで頂いて、彼女達が感じている空気感だったり、地域の魅力だったりとかを是非共感して頂ければと思います。

 

 

**綾野コメント**

『ゆるキャン△』と山梨をつなぐ武川さんの存在は本当に、作品にもスタッフにも大切なバランスになっている存在だと感じました。また、ファンの方々と地域の方々の熱量のおかげでここまで、モデル地と作品が近い関係を築けていることに担当として嬉しく思います。

余談ですが、山梨に行った際、武川さんに地元のワインを頂いたのですが、これがまた美味しくて……(笑)

このご時世のなかで、なかなか難しいとは思いますが、落ち着いたらみなさんもぜひ、山梨を訪れてみてください!