2020年3月より『ゆるキャン△』チームへと配属されたフリュー株式会社の制作担当・綾野佳菜子氏が、『ゆるキャン△』を担当するスタッフ陣に体当たりでお話を聞いていくインタビュー企画。新担当だからこそ、ゼロからスタッフの方々にお話をお伺いしていき、『ゆるキャン△』の魅力を改めて皆様にお伝えできればと思います。
第7回はいよいよ、TVアニメーション『ゆるキャン△ SEASON2』でも第1作目に引き続き監督を務める京極義昭さんです。
≪京極義昭さんプロフィール≫
『黒子のバスケ』や『ヤマノススメ セカンドシーズン』、『スタミュ』で演出を担当し、『ゆるキャン△』では初監督を務める。
▼信頼関係があるからこそ即決した“初監督”
綾野 監督にはこれまでも媒体や誌面でのインタビューをお受けいただいていますが、改めて『ゆるキャン△ SEASON2』から入るお客さんもたくさんいらっしゃると思いますので、今からでもわかる『ゆるキャン△』の魅力を、スタッフの視点から公式サイトでも紹介してくという企画になります。いよいよ監督が最後となりますが、改めて宜しくお願い致します。
京極 よろしくお願い致します。
綾野 それでは改めて監督が『ゆるキャン△』に携わった経緯から、まずはお伺い出来ますでしょうか。
京極 C-Stationの別作品に演出として入っていましたら、プロデューサーの丸(亮二)さんに呼ばれまして。そこでお話を頂きました。
綾野 他のインタビューでもお話頂いていることかとは思いますが、初監督として、最初に監督のお話を聞いた時は、率直にどのようなお気持ちでしたか。
京極 嬉しかったですね。監督をやれるということも嬉しかったのですが、C-Stationのスタジオに入っていて、スタッフの作品作りへの向き合い方や、丸さんの方針といったアニメ作りの現場が、僕の理想に近いと思っていて。一緒に仕事をしていて楽しいスタッフも多かったので、そこで初めて監督をやれるというのが、こんなにありがたい話はないなと思いました。
綾野 お話を頂いた時は、原作を読み込まれてから「よしやろう」と決断されたのですか。
京極 いえ、実は読む前に「やります」と言っていました(笑)
綾野 それは運命的といいますか……すごいですね。直感だったのでしょうか。
京極 『まんがタイムきらら』系列(当時は『まんがタイムきららフォワード』、現在は『COMIC FUZ』掲載)に連載されていることは聞いていました。即決してしまったのは、それまでに丸さんと仕事して楽しかったですし、丸さんから信頼されて任せてもらえたというのが嬉しかったからですかね。
綾野 お二人の間に信頼関係があったからこそ即決出来た、縁が結んだということですね。そして、プロデューサーの堀田(将市)さんやシナリオライターの田中仁さんに出会われて、お話作りも本格的に進んでいったと思うのですが、制作を進めていく上で、作品の印象はどうでしたか。
京極 作るのが大変な作品だなと思いました。読み込めば読み込むほど、様々な要素がこの作品の魅力を成立させているということに気付いていったので、どこにポイントを絞って作ればいいか迷いました。キャンプもそうだし、キャラクターの可愛さもそうですし、ロケーションの魅力だったり、グルメだったり、本当にいっぱい要素があって、それを一つに絞れないんですよね。結局、「じゃあ全部やりましょう」という結論に至るんですけどね(笑)。
綾野 原作と向き合って、その良さを「全部やろう」と意気投合されるのが本当に素敵な現場ですよね。その雰囲気は私もよく感じています。そんなチームの雰囲気ができていったのは、アニメの制作を進めていく上で、どのあたりのタイミングだったと監督は感じていらっしゃいますか。
京極 ロケハンを始めてからその気持ちがより強まった気がします。原作の追体験をすることで、面白さや魅力に改めて気付きました。これは絶対外せないというポイントがたくさん出てくるんですよ。空気の冷たさだったり、焚き火の音だったり、そういうものが日常では得られない豊かさを持っているということに気付くんです。そしてスタジオに戻ってきて原作を読むと、自分が体験したから、より面白く読めるんですよね。自分たちが感覚として得たものを映像に込めてあげれば、もっと良くなるのではないかと思ったんです。スタッフ達も同じ想いで、かなりの回数ロケハンに行ったのですが、スタッフから文句は一つも出なかったですね。
綾野 行けば行くほど作品の魅力も深まっていったわけですね。それでは制作に実際に入っていく中で、絞るのは難しいとは思うのですが、監督が特にこだわったポイントなどお伺い出来ますでしょうか。
京極 キャラクターはもちろんですが、キャラクターを取り巻くディティールを魅力的に見せることです。この作品はキャンプという非日常を描いている作品なのですが、その非日常というのが日常の延長線上にあるということを、原作を読んでいて感じました。少し足をのばせば素敵な体験があるんだよというのを教えてくれる気がしているんですよ。
綾野 たしかに当時はまだ興味がないと、アウトドアに具体感がわかない方も多かったのではないかと記憶しています。それがぐっと身近になったのは、まさに『ゆるキャン△』で描かれたディティールの細かさだったのかと思いますね。
京極 外に出てカップラーメンを食べるだけでも、素敵な時間が得られるんです。それは日常と非日常が分かれているわけじゃなくて、ゆるやかにつながっているのだと僕は感じました。キャラクターだけに集中するのではなくて、キャラクターの触っている道具や、そこで吸っている空気みたいな部分をいかに映像として表現するかという所が、他の作品の力を入れるポイントとは違う部分だった気がします。
綾野 たしかに、第1話からリンがテントを組み立てているシーンとか、本当に自分が組み立てているような気持ちになったりして、ぐっと引き込まれました。
京極 あのテントシーンは大変良いですよね。あれは担当アニメーターが一人でC-Stationの近くの公園でモデルになったテントを実際に組み立ててみて描いたと言っていました。
綾野 一人の女の子がテントをもくもくと立てているのをゆったりと見せているだけなのに、見入ってしまいます。だからこそリンの使っている道具を買いたくなったり、触りたくなる感覚がお客さんにも伝わったんじゃないかなと思います。
京極 そこは狙っていました。実際僕も作品が始まる前にリンが使っているモデルになったキャンプ道具を一式買ったんですが、触っているだけでワクワクして、楽しいんですよね。迫力のあるアクションシーンやドラマチックな会話が無くても、このワクワク感を伝えられれば十分魅力的だし、これが『ゆるキャン△』の世界じゃないかなと思ったので、そういう描き方をしていきました。
綾野 監督自ら道具を全部買われたのですよね。ちなみに実際にリンのキャンプ道具を買うまでは、監督はキャンプ道具を持っていらっしゃったのですか。
京極 寝袋だけスタジオで寝るように持っていましたが……(笑)。持っていなかったですね。実際にキャンプをやってみないと分からないと思ったので、そこから始めようと思って買いました。
綾野 本当にゼロからだったんですね。そして、料理も全部実際に作られたとか……。
京極 そうですね。なるべく作中と同じ場所で料理も作りました。カップラーメンのシーンなんかは担当したアニメーターが1ダースぐらい買ってきて、自分で食べたり、人に食べさせながら観察して描いていましたね。
綾野 作る場所まで!そのリアルさは、お客さんにもしっかり反応していただいたところだったと思います。
京極 料理のシーンは奥が深いと思っています。料理だけをキレイに描いてもなかなか伝わらなくて、食べた人のリアクションを見て共感するんですよね。
綾野 食べるシーンのお芝居の作画、すごいですよね。あとはライティングとか、どこで食べているのかとか、湯気の白さとかも雰囲気があって……。
京極 ロケハンに大勢のスタッフで行くことが出来たので、美術、作画、色彩、撮影…と各スタッフが自分たちが体感したキャンプの情景を、実感を込めて描いてくれました。やりたいことが言わなくても共有出来ていた感じで、それが幸せな現場でした。
▼『ゆるキャン△』は“スタッフがたった一人でも欠けたら出来なかった”
綾野 ロケハンや本読み(脚本会議)が、徹底的なこだわりと忠実さで行われていった中で、監督が「特に大変だった」、と思われるところを教えていただけますでしょうか。
京極 やっぱり本読みは特に長かったみたいです(笑)僕は初めて監督をやったので分からなかったのですが、周りは長いと言っていました。最初は原作通りにやればいいと思っていたのですが、本読みメンバー皆が納得するまで原作を読み込むのに時間が掛かりました。ひとつひとつにすごく情報量が詰まっている作品だったので、アニメにするための脚本を作っていくのが大変だったんですよね。
綾野 私も『ゆるキャン△』の本読みは長いとは聞いていましたが、実際に参加して長さというか、濃さに驚きました……。監督のおっしゃる通り、原作をそのままやればいいじゃん、と思うところではあるのですが(笑)、そんなことはなくて、原作の情報量が多く完成度が高い分、決められた尺の中で、アニメとして組み立てなおすのが大変だということも、私も実際に参加して感じました。
京極 「今週も面白かった」と思ってもらえないと次も見てもらえないですから、原作のテイストを守りつつ、30分のアニメ作品として成立するシナリオを作っていくのが非常に大変でしたね。
綾野 単なる映像化ではなく、TVアニメーションとして考え抜かれているんですよね。とくに監督は立場上、ホン打ち後の工程となるコンテ制作から作画まで、すべてに指揮をとられていている訳で、そのすべての原点であり土台になるのがシナリオ作りですもんね。
京極 それでも僕は本読みではいつも「原作通りやろうよ」と言っていましたよ(笑)。しかしプロデューサーの堀田さんが、原作の持っている芯を守りつつ、時に「ここはこう変えない?」と言ってくるんですよね。作品をより良くしようという提案なので、「なるほど」とは思いつつも、最初はケンカが多かったです(笑)。でもそうやって意見を戦わせていく中で、本当に必要なポイントというのが明確になっていきました。各人の意見を遠慮なくぶつけ合える本読みの雰囲気が、脚本の熱量を生んだと思います。
綾野 そんなやり取りはたしかにありますね(笑)そんな中で、『ゆるキャン△』では、特にお客さんに伝えていきたい部分はどういったところでしたか。
京極 『ゆるキャン△』という作品が持っている魅力すべてを、いかに「映像」で皆さんに伝えていけるかというところですかね。ちゃんと原作の中にあるものを抽出して、再構築しているという作業だったので、自分たちが原作を読んで“いいな”と思った部分を、とにかく100%映像化するというところに集中しました。
綾野 「すべて」ということで、これも絞るのは難しいかとは思いますが……。それでは監督ご自身が気に入られているシーンをお伺い出来ますか。
京極 3話のラストがすごく好きですね。アニメオリジナルで「起きなよ、なでしこ」というリンのセリフを入れたのですが、アフレコでリンを演じる東山さんの演技を聞いた時に、「これはすごいことになる」と勝手に思いました。あのシーンはキャラクターの表情をあえて外して、テントのロングショットで見せようと思ったのですが、そうなると声優さんの芝居頼みになるんですね。東山さんは一発で良い演技をしてくれて、ウキウキな気持ちでスタジオに戻りました(笑)。7話も一緒で、なでしこが入ってきたリンを見つけるという逆のシチュエーションで、3話と対になるお話かなと思っていたので、キャラの顔を見せずにロングショットで「うへへ」とつけてもらおうと思いました。
綾野 キメのセリフの時にあえてカメラを外すというのも、『ゆるキャン△』ならではの粋な演出です。話数を飛び越えて演出するというのも、すべてに携わる監督という立場があってこそできることかと思います。お客さんにも人気のシーンですよね。
京極 僕はアニメーターとして絵を描いてきた人間なので、絵のほうで頑張ろうとしてしまうんですけど、キャストさんの声の芝居の良さというのが要所要所で炸裂するわけですよ。こんな嬉しいことはないですよね。良い芝居を入れてくださってくれたおかげで成立できたと思っています。
綾野 監督の想像を超えてきたということですね。
京極 絵は自分でいじれますけど、声の芝居は自分ではいじれませんからね。一人ではできないことをやれるというのが、たくさんの人が関わるアニメづくりの魅力なんですよ。どのスタッフ、キャストさんも作品にハマってくれて、力を尽くしてくれて、それが化学反応を起こしてくれたと感じました。
綾野 オンエアを迎えて、とくに3話あたりでしょうか、アニメ公式Twitterのフォロワー数などもどんどん増えていっていましたね。お客さんの声があがってきていかがでしたか。
京極 周りの知り合いの方が見たと言ってくださったり、普段アニメを見ない方々も喜んでくださっているのを見て、見てもらえているんだなというのは感じました。人に描かせて、人に作業させて、作品を作っていくのが監督なんですが、苦労をかけたスタッフ達に返せるものというのは作品の評価しかないんですよね。だから評判が良いと聞いた時に、頑張ってくれたスタッフ達の顔が浮かびました。
綾野 私は製作側なので、アニメーターの方々とは直接お仕事することはなかなかないですが、音響や本読みで一緒に仕事させていただいているだけでも、普段から監督が先頭に立って本当に真摯に作品に向き合っていらっしゃる姿を見て、現場の皆様の一体感が生まれているのだろうなと想像できます。
京極 あの人がいなかったら描けなかったというのが本当に多くて、僕は勝手に旗を振っているだけで、実際に形にしてくれるのはスタッフ達でした。一人でも欠けたら出来なかった、というぐらいのメンバーが本当に奇跡的に集まってくれたと思います。丸さんと堀田さんが集めてくれたんですけど本当にありがたいなと思います。
▼どこを取っても楽しめるように制作していく
綾野 続いては『ゆるキャン△』を経て、続編シリーズのお話を受けた際のお気持ちをお伺い出来ますでしょうか。
京極 やはり続きのお話を頂けるというのは、それだけたくさんの方に喜んでもらえた。ということなのでそこは正直嬉しかったですね。やった甲斐があったなと思いました。
綾野 ただ実際にお受けするかは、決断に迷われたと伺っています。
京極 迷いましたね。1作目を作っている時は続きがあると思っていなかったので、『ゆるキャン△』の良さを全部入れ込もうと出し惜しみをせずに制作しました。お客さんがまた同じものを見たいという気持ちは非常によく分かるのですが、恥ずかしながら僕らはあの時と同じ作り方は出来ないと思っていたので、そんな状態のまま2作目を作りましょうとなっても良いものが出来ないと感じたからです。
綾野 それはお客さんも誰もが思うところかと思います。実際にお受けいただけることを決めたのは、どういった決め手があったからだったのでしょうか。
京極 原作を読んでいくうちに、あfろ先生がまた違うことをやろうとしているなと思ったんです。1作目とはまた違う魅力が出てきていると感じたんですよ。それが何なのかというのは是非『SEASON2』の放送を見ていただきたいですが、これは新しいチャレンジなのではないかと思い、続編のお話を受けさせてもらいました。
綾野 今回インタビューをしたスタッフの皆さんどなたも、『SEASON2』では新しいチャレンジをしていかないと、というお話をしています。その雰囲気は、監督の『SEASON2』に懸ける想いの強さが中心にあると感じます。
京極 『ゆるキャン△』は自分たちにとっても思い入れのある作品なので、中途半端には続編の制作を受けたくなかったんです。それにあfろ先生に作品を預けてもらって僕らは作れているわけですから、下手なものを作ってしまっては先生にも失礼な話なので。やるからには良いものを作りたいし、そのためには何が必要か、何をポイントにして制作するべきか、ということを色々考えた上でお引き受けしました。
綾野 監督をはじめスタッフのその想いが詰まった『SEASON2』のフィルムが確実に出来上がってきていると思います!オンエアもいよいよ迫ってまいりました。最後にはなりましたが、現段階で言える範囲で、監督が注目してほしいポイントをお伺い出来ますでしょうか。
京極 色々な要素が『ゆるキャン△』を成立させていて、お客さんによって好きなところを見つけて頂きたいので、こちらからは見方を決めたくないと思っています。なので、全部ですね。色々な楽しみ方が出来る懐の深いアニメになるといいなと思っています。自分が楽しめる部分や好きなポイントを皆さんには是非見つけていただきたいです。
綾野 それは私も間違いないと思います!お客さんごとに、そして繰り返し観ても楽しめる部分が違う映像に、仕上がっていると日々思います。オンエアが待ちきれません。
**綾野コメント**
監督とは、普段本読みや音響でおもにご一緒しておりますが、実は私も今年の夏に、初めてロケハンに帯同させていただく機会がありました。その際に印象深かったのが、当時は真夏の炎天下で日差しもうんざりするくらい強くて、スタッフ一同がロケ地とロケ地の間を車で10分程移動しようとした時、京極監督だけ「リンたちが歩くので僕も歩きます」と言ってお一人でずんずんと歩いていかれまして。。すべてご自分の手足で試してみて、追体験していく、「これが京極監督のロケハンか!」と刺激を受けたのでした。1つのシーンをとってもそんなこだわり抜いて設計されていますので、『SEASON2』の密度も大変なことになっております。ぜひ、あfろ先生がたどった、そして京極監督がたどった『ゆるキャン△』という世界の追体験を、ユーザーの皆様にも、アニメでじっくり堪能していただきたいです。