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『ゆるキャン△』Blu-ray BOX発売記念:『ゆるキャン△』スタッフ対談インタビュー 第6弾 ~丸 亮二さん(アニメーションプロデューサー)~

2020年3月より『ゆるキャン△』チームへと配属されたフリュー株式会社の制作担当・綾野佳菜子氏が、『ゆるキャン△』を担当するスタッフ陣に体当たりでお話を聞いていくインタビュー企画。新担当だからこそ、ゼロからスタッフの方々にお話をお伺いしていき、『ゆるキャン△』の魅力を改めて皆様にお伝えできればと思います。

 

第6回は、TVアニメーション『ゆるキャン△』の制作チームより、最初からのコアメンバーでもあるアニメーションプロデューサーの丸亮二さんにお話を伺いました。

 

≪丸亮二さんプロフィール≫

アニメーション制作会社C-Stationの代表。

 

 

▼作品の魅力が繋いでくれた縁

綾野 丸さんとは制作していく上で、結構やり取りをさせて頂いておりますが、改めて色々お伺いしていければと思います。まずは『ゆるキャン△』という作品をC-Stationさんでやることになった経緯からお伺いしていければと思います。

 

丸 プロデューサーの堀田さんがC-Stationに企画を持ってきていただいたところが始まりです。堀田さんとはそこで初めて会った形ですね。まだその段階では原作の連載が2話目で、その原作1,2話のコピーを持ってきてくれました。

 

綾野 そもそも堀田さんとはどのようなつながりがあって、C-Stationさんに企画を持ち込んだのでしょうか。

 

丸 共通の知人に紹介していただいた形ですが、それ以前のつながりはほぼ無いです。とは言え、それはよくあることなので、とりあえず会いましょう、となって。その時に雑誌のコピーを見せていただきました。そして初めて読んでみて、先生の絵の魅力に数ページで衝撃を受けました。

 

綾野 絵の魅力がすごいですよね。引き込まれます。

 

丸 読んでいくと、これはそれまでに見たことが無い、新しい感覚のマンガではないか、と思いました。また、作品としての魅力的な「武器」を多く感じました。「ご当地でキャンプ」を前提としながらも、グルメだったり、道具やノウハウものの面白さだったり、女の子の可愛くて面白いやり取りもある。本当に宝石箱のように魅力的な事柄が詰め込まれています。あとはバイクや車といったガジェット要素、同じ場所にとどまらず、舞台が変わっていく「旅もの」の要素も入っていて、ロマンを掻き立てるんですよ。こんなことやってみたい、行ってみたい、食べてみたいって。そんな「~してみたい」を、女の子たちがゆる~くやってくれるのがいいんですよね。魅力的な入り口がたくさんあって、どこから入っても楽しめる。読み応えが軽やかで優しいところもいいですよね。

 

綾野 押しつけがましいところが全然ないですしね。

 

丸 そうなんですよ。キャンプ場の夜の闇を僅かな光で可愛い女の子たちが照らされるというライティングなんかも、読んだ時に映像でやってみたいと思いました。原作のコピーは白黒だったのですが、そこに光や色が入ることを想像すると、とにかく絵になるな、感じました。

 

綾野 キャンプやアウトドアに以前から詳しかった、とお聞きしたのですが。

 

丸 私は高校生から20代前半まで、子供を連れてキャンプに行ったりするボランティア活動に参加していたこともあり、オンシーズンにはかなりの回数行きました。私の特技は「飯盒で上手に飯が炊ける」だったりします(笑)。キャンプだったら人に教えられるし得意だったので、このお話を頂いた時に、自分の知識や経験値が活かせるかも、と思いました。そんなこともあり、普通だったら企画書を検討する時間をもらって、会社の子に意見を聞いたりするのですが、このタイトルが目の前を素通りしたら後悔するなと思い、即答でやりましょう!と言ってしまいました。

 

綾野 堀田プロデューサーは丸さんがキャンプの知識があることを知っていて、C-Stationさんに持ち込んだんでしょうか?

 

丸 いや、これが完全に偶然なんですよ。あとになって堀田さんに「あの時なんでうちの会社に企画を持ってきたのですか」と聞いたら「勘です」って(笑)。ただ、私は普段から無作為な“勘”こそ、本当に信じられる正しいことなんじゃないかなと思っていたので、本当にありがたいお話だな、と。また、私も“勘”で引き受けられてよかったなと思いました。『ゆるキャン△』という作品の魅力が繋いでくれた縁ですね。

 

綾野 メインのスタッフィングについては、堀田さんとはどういった形で決めていったんですか。

 

丸 作品の先陣を切るメインスタッフは、監督と脚本家です。色んな決め方がありますが、大概はそこからスタートします。制作側の私から監督を、製作側の堀田さんから脚本家を、それぞれ出しあいました。私が監督の選出を考えるときに、実写的なカメラの感覚を持っていて、リアリティのあるスポーツものなどで経験を積んできた京極さんが、『ゆるキャン△』で描かれる丸っこいキャラクターと相対した時におもしろい化学反応が起きるのではないかと思い、推させていただきました。そして堀田さんから懇意にしている脚本家に田中仁さんがいるということで、オファーを掛けてもらいました。で、それぞれ原作を読んで、4人で集まって…これが最初のメンバーです。そこから3~4か月『ゆるキャン△』のどこがどうおもしろいのか、毎週集まって語り合いました。分析というよりも、魅力を語り合うファンの集いみたいになっていましたね(笑)。

 

綾野 まだ原作も話数があまりない時点でそうだったのですね(笑)。

 

丸 何度も読み返しながら、私たちが一番のファンである意識を高めていく~、みたいなことをずっとやっていました。そして4か月くらい経ったとき、堀田さんが「とりあえずキャンプ行ってみますか」と言ったので、私が道具を揃えて、第1話でリンとなでしこが出会った本栖湖の浩庵キャンプ場に行きました。普通の客として(笑)。我々以外はファミリー1組、ソロ1組でほぼ貸し切り状態で。4月下旬でまだ寒かったんですが、テントを張って薪を拾い、松ぼっくりで火をおこしたりカレーを作ったりして一晩過ごしました。ずっと弱い雨が降っていて。ところが朝になったら、ウソみたいにめちゃくちゃ晴れたんです。夜は真っ暗で何がどこにあるのか分からない状態だったのですが、こつ然と巨大な富士山が朝日にあたって見えていました。風もなく、湖面に鏡富士が綺麗に映っていて…。その時のすごい景色のインパクトを4人で実感し、そこから制作が本格的にスタートしていきました。ホントに晴れて良かった(笑)

 

綾野 4人でのキャンプがありつつ、コアメンバーからスタッフを広げていくにあたって大切にしていたことをお伺い出来ますでしょうか。

 

丸 キャラクターデザインについては、原作のあfろ先生の絵柄にあった人を選ばないと、と思っていました。キャラの丸みや柔らかさ、さらに服飾が細部に渡るのでその部分に興味が深い人。あとは長髪女子キャラが多い作品なので、髪の毛の長いロング線が得意な人を、とかいろいろ考えたときに、社内の佐々木(睦美さん)にお願いしたいなと思って決めました。その他のメインスタッフについては、私が昔から懇意にしている会社さんやスタッフの皆さんを中心に、監督との相性を重視して固めさせていただきました。

 

綾野 監督との相性を重視して、やり取りのしやすい方々をアサインされたのですね。

 

丸 そうですね。『ゆるキャン△』はとにかく情報量が多いタイトルです。ロケハンは必須だし、道具や服飾、食事にメカ。また時間や季節や地域性に拘るべきタイトルなので、細かく情報を整理して共有していかないといけない。そういうタイトルを取り組む時に、監督や演出陣と同じ文脈を共有していただけるスタッフの方々です。

 

 

▼作品を作る上での相性は“100回くじ引きしてすべて当たった感じ”

綾野 制作を進めていく上で、ロケハンにもかなり行かれたとお聞きしておりますが、改めて第1作目の『ゆるキャン△』の中でロケハンでの取材が活きたシーンなどお伺い出来ますか。

 

丸 一話ごと、一シーンごとにある気がしますね。たくさんありすぎて、どれとは明言できないのですが…例えば山の迫り方。山梨では住宅地のすぐそばに山があります。実際に見ると山のスケール感というか圧力があって、大きく迫ってきている感じ。写真で見るとなぜか小さく見えるんですが、実際の「見た感じ」により近づけるように、美術さんと話しました。焚火をしながら、撮影監督さんと焚火の作画素材の組み方や光の色などを話しあったり。冬の山梨は鳥の鳴き声がほとんどしないと気づいて、音響効果さんに再現してもらったりしました。

 

綾野 それは確かに行ってみないと分からないですよね。

 

丸 キャンプ道具に関しても、モデルになった道具はほとんど購入しました。監督とも「本物がやっぱり一番多くの情報を得られるよね」と話していたので、道具を購入して、料理も作って、現地でしか食べられないものを食べにいって…とひたすらやってきました。許可をもらって写真やムービーで撮影して何度も見ていました。そうしないとロケに行っていないアニメーターさんやほかのクリエイターさんにその料理がいかに美味しかったのか、その時に見た景色がどれだけ綺麗だったのか、と説明できないので、とにかく記録をとりました。お客さんが見て、「これそのまま再現されているよ」と思って頂けたのなら、スタッフの皆さんの努力の成果ですね。あfろ先生が実際に見たもの、聞いたもの、食べたものというのを原作で再現していたので、映像でもまずは同じことをやらないと再現できない、との思いから、あfろ先生の残像を必死に追いかけているみたいでした。

  

 

綾野 モデルとなる本物が存在してしまうからこそ再現するのが大変ということですか。

 

丸 それは逆で、本物があるからこそ力が入ると言いますか、こうやってやれば近づくかなということを分析して、再現していくことに取り組めました。いわゆる「ご当地もの」をほかの会社さんがどのようにやっているかも分からなかったので、思いついたことは全部やろうと思って夢中にやっていました。どの事柄も苦労は多くても楽しく制作出来たし、新しい取り組みだったと思います。

 

綾野 新しいことへの挑戦、ですね。

 

丸 そうですね。私の中の努力目標として、人の手で作っている、手作り感の良さをTVアニメでどれだけ迫れるのか、というものがあります。我々がこの作品に取り組んでいるということをちゃんとお客さんに伝えていこうという所で、手作りで作った痕跡が伝わるような作り方をしていければと思っています。そういう部分が『ゆるキャン△』という作品で、良い形で反映できたのではないかなと思います。

 

綾野 手作り感を残すという作り方や、新しいことへの挑戦をしていき楽しみながら制作を進めていったのが、作品的にもマッチしていたのですね。

 

丸 監督のやりたかった持ち味にも合っていたんじゃないかなと思います。作品には相性が合うか、というところが多く存在していて、脚本家と監督の相性やプロデューサーと監督の相性もありますが、監督と制作会社の相性というのも大事ですね。ほかにもキャラクターデザインと監督の相性もそうですし、撮影さんと背景さんの相性とか、音楽・音響と監督の相性だったりもそうです。『ゆるキャン△』というタイトルは全部良い組み合わせだったと思うんですよ。100も200もそういった相性ってあるんですけど、100回くじ引きして全部当たったような感じでしたね。

 

綾野 そうだったんですね。そんな中で作り上げていった『ゆるキャン△』でしたが、放送されてからのお客さんの反応を見られていかがでしたか。

 

丸 素直に嬉しかったですね。ラインプロデューサーとして最初から最後まで、一番長い時間携わっているので、もう作品を客観的には見られないんですよ。面白いか面白くないか分からなくなっちゃっているので(笑)。お客さんが反応してくれると、やっていたことは間違っていなかったんだなと分かって、やっていてよかったなと思いました。

 

綾野 お客さんからは第5話の夜景交換のシーンが特に人気だったりもしました。

丸 第5話は完成前のラッシュチェックを見た時に自然と涙が流れそうになりました。光と影と音楽、そして被写体があって、そこに何の説明もないのですが、言葉にならないものが沸き上がってくる何かに“映画”を感じて、自分がやったTVシリーズでここまで至れた、という感慨がすごかったです。アニメに携わって20年以上経った時にこんな体験をすることが出来るとは思っていなかったですし、「スタッフの皆さんありがとう」と思いました。

  

 

 

▼作品の魅力は“言葉にならない表現を言葉にしないまま描いていること”

綾野 『ゆるキャン△』が放送された後、1月から放送される『ゆるキャン△ SEASON2』を含めて続編も発表されていきました。最初にお話を聞いた時のお気持ちをお伺い出来ますか。

 

丸 最初は「来ちゃったな」って思いました(笑)。プレッシャーや重圧を感じたわけではなく、来るべきものが来たという感じですね。

 

綾野 一気にお話が来たわけですもんね。

 

丸 会社としてはさらに新しい取り組みをやっていかないといけないし、監督も当然新しい要求をする。さらにスタッフさん達がまた楽しんで出来るように、「新しいな」「面白いな」と思ってもらう状況を作らないといけないので、続編で同じタイトルをやる中でそれが出来るのかを考えました。お客さんが1作目の時に感じたものをもっと高められる、超えていくような新しい何かに取り組んでいかないと作品の新鮮な楽しさを失ってしまうので、そこが大変だなと思いましたね。

 

綾野 同じ作品を続けていくからこそ見える壁でもあるということですね。

 

丸 そして堀田さん、京極さん、田中仁さん、私で1作目の時のように集まって、『SEASON2』をどうしていくかと話し始めました。原作の5巻から改めて読み始めるのですが、あfろ先生が新しいテーマを少しずつ入れていることに気付づかされました。ダイヤの原石みたいに磨かれていないものを先生が用意していてくれて、先生がすでに新しい取り組みをやっていたのだということに気付くんです。

 

綾野 原作のすごさを感じて作り始めたTVアニメだったのが、やっぱり原作に戻ってきたということですね。

 

丸 そうですね。やっぱりあfろ先生の残像を追いかける旅の始まり、といいますか(笑)。道具も買い足して、車やバイクも何台か実物を購入し、ロケハンもたくさん行って…。『SEASON2』では第1期の良いところを踏襲しながらも、全く新しいタイトルに臨む姿勢で取り組んでおります。そうすることで、お客さんの心に響く新しいドラマを作っていけると思っています。

 

綾野 いままでインタビューしてきた方は、“間”とか“引き算”という部分が魅力と仰っている方も多かったのですが、最後に丸さんが思う『ゆるキャン△』の魅力をお聞かせいただけますでしょうか。

 

丸 「言葉にならない表現を言葉にしないまま描いている」、ということですね。これが『ゆるキャン△』というマンガの魅力だと思います。たとえセリフが無くても、景色や表情が多くの大切なことを伝えてくれているんじゃないかと。これをこのまま受け取って、映像作品として増幅して伝えるのがアニメーションの大事な仕事ではないかと思います。『SEASON2』でも、あfろ先生が持っている表現の魅力をお客さんに余すことなく伝えていければと思っています。

 

**綾野コメント**

企画の立ち上げスタッフとして、そして作品のラインプロデューサーとしてアニメシリーズのフィルムの最初から最後まで、多くのスタッフが関わるアニメーション制作の上で、まさに生き字引のような存在である丸さん。今回のインタビューでは触れられませんでしたが、実はフィルム外でも、『ゆるキャン△』シリーズの魅力の一つであるスタジオ描き下ろし版権なども、シリーズを通じて丸さんが、一つ一つすべて自ら制作管理されています。途中参加の私にもいつも丁寧に、大切にしていることや、これまでの経緯を一から教えてくださっていて…。丸さんにつないでいただいて、ようやくお届けできる「手作り」の息遣いを、『SEASON2』でもぜひファンの皆様にも感じていただければと思います。もう少しだけ、お待ちくださいませ。