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『ゆるキャン△』Blu-ray BOX発売記念:『ゆるキャン△』スタッフ対談インタビュー 第5弾 ~田中仁さん(シリーズ構成)~

2020年3月より『ゆるキャン△』チームへと配属されたフリュー株式会社の制作担当・綾野佳菜子氏が、『ゆるキャン△』を担当するスタッフ陣に体当たりでお話を聞いていくインタビュー企画。新担当だからこそ、ゼロからスタッフの方々にお話をお伺いしていき、『ゆるキャン△』の魅力を改めて皆様にお伝えできればと思います。

 

第5回は、TVアニメーション『ゆるキャン△』の話の軸を作っていく、シリーズ構成の田中仁さんにお話をお伺いしました。

 

≪田中仁さんプロフィール≫

TVアニメのシナリオライター。『あんハピ♪』、『Go!プリンセスプリキュア』、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』などでシリーズ構成・脚本を務める。

 

▼絵として30分持つと確信した“スタッフとの初めてのキャンプ”

 

綾野 ホン打ち(シナリオの打ち合わせのこと)で何度もお会いしていますが……、本日は改めて宜しくお願いします。

 

田中 宜しくお願いします。

 

綾野 最初はまず皆さんに伺っているのですが、『ゆるキャン△』という作品に携わった経緯を教えて頂けますでしょうか。

 

田中 もともと『あんハピ♪』というTVアニメ作品を担当していて、その作品のプロデューサーであった堀田さんから声をかけてもらいました。実際に僕のほうにお声がけ頂いたのは、単行本1巻が発売されたぐらいのタイミングでした。最初に単行本を読んだ時、お世辞でもなんでもなく、この作品すごいって感じました。当時は本屋でも平積みされていなかったのですが、「なんでもっと仕入れてくれないんだよ!」と勝手に思うほどでした。

 

綾野 衝撃を受けられた訳ですね。作品のどういった部分に面白さを感じましたか。

 

田中 リンというキャラを中心にして描いている所が、今までに無いと感じました。お話をもらった当時、日本で多様性という言葉はそこまで広まっていませんでしたが、本作の空気感とか距離感はまさにそこを捉えている作品だったので、そこにすごく感銘を受けました。

 

綾野 多様性という時代性を、当時単行本1巻の段階で田中さんは感じ取られていたのですね。

 

田中 やっぱりリンというキャラの立ち位置が大きいですね。一人でもキャンプに行くという所を描いていて、こういうキャラを主人公に据えている部分がすごいですよね。そういった本作の共感できる部分をたくさんの人たちに知ってもらいたい、広めていきたいというモチベーションも生まれたし、絶対に良いものにしようという感情がコミックを読んだ時点で生まれました。

 

綾野 実際にシナリオの打ち合わせが始まっていく中では、TVアニメではどういう方向性を目指していきましたか。

 

田中 京極監督だったり、アニメーションプロデューサーの丸さんだったり、プロデューサーの堀田さんだったり、みんな僕と同じような思いが最初にお会いした時点でありました。初めは、その四人で作品の良さなどを語り合いました。それだけでも2か月ぐらい話していましたね(笑)。

 

綾野 2か月ですか……!

 

田中 監督や丸さんは初めましてだったので、共通認識を作っていく、我々自身の距離を近づけていく時間でもありました。世代も近いので、好きなアニメや、考え方もすごく近いというのも確認出来ました。

 

綾野 四人で実際に本栖湖にキャンプにまで行ったというお話も伺いました(笑)

 

田中 そうですね。まだロケハンという段階ではなかったのですが、四人で初めてキャンプをしました。皆でワイワイと話しているわけでなく、淡々と話して、たまに無口になってみたいな時間もあったりしました。焚き火もただじっと見ている時間もあったり(笑)。アニメーションにする際に「絵として30分もつのだろうか」という悩みがありましたが、実際にキャンプを経験して、この空気感を描けるのであれば、それだけで30分、全然持つなと感じました。

 

綾野 共通認識を監督たちと深めていく中で、共通して良いよねとなった部分と、意外だった部分などはどんなところでしたか。

 

田中 僕や監督は、リンの考え方や過ごし方が良いなと思っていました。メインに出てくる5人の中で誰を立たせるのかという話になった時にリンだと感じていました。逆に堀田さんは最初からなでしこがストーリーの中心だと仰っていました。それぞれどのキャラを通してこの作品を見るのかという部分は違っていましたが、キャンプの空気感とか時間をどういう風に使っていくかは、脚色や演出の加減という部分ではやりすぎてはいけないと常に気を使っていましたし、皆の共通認識としてありましたね。

 

綾野 誰を立たせるのか、の感じ方が違ったのは今となっては面白いですね。しかし大切にしたい部分は不思議と共通していた。

 

田中 そうですね。特にオリジナル部分を書く時に、30分通して書いていくとどうしても山場を作りたくなってしまうんですよね。山場自体は作るのですが、ほかの作品とは違ってなるべく語らずに映像で見せていきました。喋っていないけれども、何を言っているか分かるよねというような。そんなこともあり、台本は行動や気持ちなどト書きが多くなってしまいます。なんとも言えない気持ちを表現するのに、的確なセリフが出ないとなったら、皆で何十分もそのセリフ一つで話し合ったり、このセリフ自体をカットして映像として表現して伝わるかの検討もしていました。

 

綾野 どのスタッフに話を伺っても、間とか空気感を意識したとおっしゃっていました。だから映像として出来上がった時に達成感が生まれたと。さて、シリーズ構成は田中さんですが、脚本については伊藤睦美さんとお二人で分担されていました。12話まで書き上げていく中で気を付けていたポイントや、伊藤さんとの連携した部分などお伺い出来ますでしょうか。

 

田中 僕がエモーショナルな感情を思考してしまう性格であるのは間違いないので、そうじゃない楽しいことや、笑いの部分を楽しんで主観として書ける伊藤さんには入ってほしいとお願いしました。

 

綾野 笑いとか楽しいという部分も、エモーショナルな決めのところも、どちらも『ゆるキャン△』においては欠かせない部分です。

 

田中 自分が持っていない部分を上手く補完してもらえましたね。

 

綾野 具体的に伝えていきたかった部分はどんなところでしたか。

 

田中 いつの時代もそうだとは思うのですが、一人になって孤独を感じている時って悪い方向に考えてしまう人も多くいるんじゃないかなと思います。原作を読んだ時に、うまく趣味や生き甲斐を見つけることができない人達にも、一人でもキャンプをやれるし、車とかバイクとかなくても出来るし、キャンプでなくてもいろいろと行動することを肯定できる。そういった部分を作品として提示できると思ったので、描いていければと思っていました。

 

綾野 一人で楽しんでいる様子を淡々と描いていて、それでいて皆でわいわいする部分も描いていて。繰り返しにはなりますが、一人も良いし、皆も良いということが伝わってきますよね。

 

 

▼ケンカにならない程度の激論を交わした最終話のシナリオ

 

綾野 続いて、限定するのは難しいとは思いますが、特に気に入っているシーンを教えて頂けますでしょうか。

 

田中 もちろん映像的には全部ですが、制作の構成上で言うと、1クールという短い作品なので、早い段階で好きになってもらわないといけないと思っておりました。5話は本当に良いですが、タイミングは少し遅いと思っていました。重要なのは1~3話。1話で出会い、2話でリンはキャンプを断ったことでもやもやしてしまう。そして3話で帰結を向かえるという流れになっていました。この流れで作品の良さを感じてもらうということが、構成的に最初の目標ではありました。そういう意味では3話のラストのアニメオリジナル部分「起きなよ、なでしこ」という部分が気に入っています。

  

綾野 私も実は3話が一番好きです!リンが初めて「なでしこ」と名前で呼ぶアニメオリジナルシーンがたまらないんですよね……。

 

田中 距離の詰め方としていきなり呼ぶ展開にはしたくなかったので、自分のスタンスもある中で寝ている相手に対して言ってしまうという描き方をしました。

 

綾野 あそこはシナリオを作っていく段階で、3話で盛り上げようという風になったのですか。

 

田中 オリジナル部分に関しては、最初から話していたわけではなく、3話のシナリオの時になんとなく書いてみた感じでした。ただ「起きなよ、なでしこ」はすんなり出てきた感じではありました。

 

綾野 実際にオンエアが始まってみてはいかがでしたか。

 

田中 監督がしっかり作品としてリズムを作ってくれていたので、1~3話の流れがとにかく理想とした通りのドラマ曲線を作ってもらえたと感じました。

 

綾野 TVアニメとして毎週観るものとしても、お客さんの反応が毎週高まっていって……狙いがはまっていましたよね。では逆に、シナリオ作りで苦労した部分についてもお伺い出来ますか。

 

田中 そこは最終話ですかね。クリキャンで終わるという流れは最初から決まっていました。原作のほうではその後も続いていくのですが、アニメとしては一回エンドマークをつけなければいけませんでした。そして最後の部分はそこそこ長い尺で、アニメオリジナルで終わらせるという部分も初めから決まっていたので、その内容をどうするのかというところを悩みました。こういう空気感の作品だけど、実際の制作現場は激論を交わすことが多かったです。もちろんケンカにはなりませんでしたが、最初に仲良くしていたのがここで効いてきましたね(笑)。皆、互いの気持ちが分かっているからこそ自分の意見をぶつける事ができました。

 

綾野 最初に皆さんで焚き火を囲んだから大丈夫だったんですね(笑)。

 

田中 皆で必死にアイデアを出したのですが、完全に行き詰まってしまいました。その日は終わりにして、その次の週も休みにして、2週間の期間でなんとか考えるという形になりました。結論まで付かないで2週空けるということはそれが初めてでした。それまで話した内容を改めて取捨選択して、2週間後に持っていった形ですね。オリジナルのなでしこがソロキャンするところで終わるというのはもともとなんとなく僕の中ではありました。

 

綾野 そして最後の「晴れてよかったね。」が出てきたんですね。

田中 あれを入れた経緯はもう覚えていないな。

 

綾野 四人で最初にキャンプに行った際に田中さんがおっしゃられた、と伝え聞いています(笑)

 

田中 ああ、そうですね(笑)ちょっと雨が降っていて、富士山が見えない状態で寝たのですが、朝の5時ぐらいに起きたら晴天で、綺麗に富士山が見えていました。その景色を見たときにボソッと言った感じですね。

 

綾野 いやもうそのタイミングでキャンプに行っていなかったら、もしかしたらその一言も生まれていなかったかもしれない……ということですよねえ。

 

▼『ゆるキャン△』を中心としたライフサイクルで楽しんでもらう

 

田中 話は戻りますが、最終回では色んな案が本当に出ていました。30分の中に入っていた『へやキャン△』の案は監督が毎回出してくれていました。そういう経緯もあって、12話の野クル十年後の部分ももともと入る予定ではあったのですが、最後アニメオリジナルで描くとなった時に、いろいろ詰まりすぎてしまっているので、削るという話もありました。そんな中でただの最終回にしないために、堀田さんから野クル10年後は最終話の頭につけて話に混ぜ込もうという提案を頂きました。間が良いことに、11話のラストでちょうどリンがバイクに乗ってコンビニに一人で行くというシーンで終わっていたので、最終回の冒頭で戻ってくるのが十年後になっているという形でつなげることが出来ました。少し洒落も効いていましたね。

   

 

綾野 粋なオリジナルですよねえ。オンエアを迎えて、お客さんからの評判を聞いてどうでしたか。

 

田中 その当時は『ゆるキャン△』という作品を知らない人のほうが多かったのですが、割と早い段階で面白いと言っていただいている方も多かったので目標は果たせたかなと思いました。3話までで流れを作って、その後5話という所で、だいぶ盛り上がってくれているというのは伝わってきたので嬉しかったですね。

 

綾野 Twitterのフォロワー数も、オンエアを重ねるごとにぐんぐん伸びていっていたのを記憶しています。そういったありがたいことにお客さんの力もたくさんいただいて、ようやく『SEASON2』が来年の1月から放送されます。続編の話を聞いた時、どういった心境だったかお伺い出来ますでしょうか。

 

田中 もともと放送が終わったタイミングでは続編の話は決まっていませんでした。この『ゆるキャン△』という作品を知ってほしいというスタッフ全員の共通認識を、自分たちの想像以上の形で果たすことが出来て、続編のことは正直考えていなかったです。そんな中で続編の話があがってきて、我々は次に何をテーマに話を描いていくのかという部分から考えていきました。そんな中でプロデューサーの堀田さんからショートアニメ、第2期、映画という形の作り方で提案されて、その中で自分たちの伝えたいことを表現していこうという話になりました。

 

綾野 まさにお客さんの声が届いて、プロデューサーのアイデアでスタッフの描きたいことが見えてきて……。ようやく実現できた新シリーズですね。最後に田中さんが思う、『ゆるキャン△』が持つ魅力や楽しみ方をぜひファンの皆様に改めて教えて頂けますでしょうか。

 

田中 一週間の楽しみを提示出来ることかなと思います。これは堀田さんが想定していた事でもあるのですが、『ゆるキャン△』の放送を中心に一週間のサイクルを作ってもらうというところは僕も意識していました。木曜日の夜に放送していたのですが、まだ平日として金曜日があって、そして土日の休みがある。木曜日の夜『ゆるキャン△』を見て、金曜日の夜にキャンプの道具を見に行ったり、行きたいところを調べたりして、土日に実際に行ってみるという形ですね。そして月曜日~水曜日をまた過ごして、木曜日を迎える。そんなサイクルを考えていました。

 

綾野 ライフサイクルのなかで、『ゆるキャン△』を楽しんでもらうということですね。

 

田中 『ゆるキャン△』というものを好きになってもらって、極論キャンプじゃなくても何か好きなことに夢中になって、そういう楽しみをもって自分の時間を過ごしてもらえたら……そういう気持ちを提示できる作品になってほしいと思っていました。

 

綾野 一週間の楽しみのひとつに。『SEASON2』でもまたぜひそう思って見てもらいたいですね。

 

 

**綾野コメント**

シリーズ構成というと、1話ずつの脚本とは何が違うのかイメージが分かりづらいかもしれません。原作コミックスという題材から、アニメという「シリーズ」のなかで、今の時代に、何を伝え、しかもTVという媒体で、毎週、観ていただくためにどこを盛り上げ、どう落ちをつけるのか。『ゆるキャン△』では、シリーズ構成である田中さんが、ユーザーの“ライフサイクル”まで考えて、それをスタッフ陣と作り上げられていました。そして実際にたくさんの皆様のライフサイクルのなかの一つとなることができたことによって、また来年1月から、『ゆるキャン△ SEASON2』のある一週間をようやくもうすぐお届けできます!その前に、12月には、より手にとっていただきやすくアニメを丸ごと楽しめる『ゆるキャン△』 Blu-ray BOXも発売に向けて制作進めております。ぜひこの冬、あなたのライフサイクルを『ゆるキャン△』で彩られますように…!